書籍「中国工場 トラブル回避術」はメカのみと視点狭めだが、対中国工場の取引経験少ない人には参考になる

日経BPさんから2020年に出版された書籍「中国工場トラブル回避術」を献本いただいたので、日本から出張ベースで中国サプライヤーを十数年使い倒してきた身から感想を書いてみる。

中国の工場を使って家電製品を作ってきた小田さんという著者の方による、対中国工場のトラブルあるあるを自身や身の回りの方の経験から例にあげつつ、回避策について解説していくHow to本。イラストどっかでみたことあるようなきがとおもったら闇雲大佐だった。

前半はどちらかというとコミュニケーション論で、日本人が対中国工場においてトラブる「中国人ってこういう人たちだからこういうコミュニケーションしないとまずいよ」という内容。日本人がそうであるように、中国人(人口は14倍だからね!)としてひと括りにして論じることに抵抗があるが、日本人は海外出張で何も決めずに帰っていく、と海外からはよく言われるのと同じことだ。そして、著者が書くこの一般論についてはおおむね同意できる内容だ。著者が決して中国の工場、そこで働く人達を嫌いなわけではなく、リスペクトしたうえで書かれているのがよくわかる。「対中国工場のトラブルは9割が日本人側に原因がある」と書籍内で断言されているが、そうだよなぁと頷きながら読んだ。

実はこの本の内容は、著者が対中国メインでやってきたから中国と銘打たれているが、日本以外どこの国とやり取りする時にでも使える内容である。私は対フィリピン、対ベトナム、対台湾などいろいろやってきたが、結局のところ相手の「察して動く」「1行って10動く」「細かく管理しなくてもそれなりに進む」スキルに頼ったビジネスアクションは、海外工場相手だと機能しない。なので、本の内容は他の国にも十分に通用するものだと理解して読んでもらっていいのではないだろうか。

著者が機構設計一筋の方だったのか、事例のすべてが機構設計ならびに機構関連の部材ならびに組み立てプロセスにおける内容となっているのがちょっと惜しい。本の帯や、サブタイトル「元ソニー設計者が伝授、絶対に不良を出さないノウハウ」などからは、メカの話しか書いてないんだよというのが伝わらない。電気設計やPCBまわり、実装(SMT)まわり、ファームウェア関連、物流まわり、梱包資材まわりといった点の言及が一切ないので、このあたりを期待して本を買ってしまうと肩透かしを食らう。「メカ屋向けの本だよ」って書いといてほしい・・・。

逆に言うと、どんなにメカ屋が頑張っても輸送でトラブったら不良は出るし、基板実装不良だって出る。ファームまわり(とくに工場用テストプログラムと関連治具ならびに作業指示書)がだめだと…以下略。

もっともメカについては後半かなりのページ数をつかって深く掘り下げられており、メカ屋ならびにメカ屋側面も含めてマネージしないといけない立場の人には参考になるだろう。日経BPさんにおかれましては、他の著者の方を探して電気屋Verとかソフト屋Verも出してほしいところ。でもほんとに求められているのは、全部のパートを広く浅く攫った、経営層向けの本なのかもしれない。分野が多岐にわたるゆえ、書くのめっちゃつらいけどw

すでにこの本読んだよ、という方にむけたコメントを最後に一つ。
主に日本語を主として、通訳(あるいは通訳的な立場の営業など)を入れた立場で対中国工場コミュニケーションをやっておられた方のようで、本書の全体にわたって「通訳を使う前提」でのコミュニケーション手法について書かれている。通訳を使うケースにおいては著者の意見に90%以上賛成である。

でも、本当にトラブルを減らしたいなら、まずは英語コミュニケーションに慣れて、スマートフォンにWeChatを入れて、先方の営業担当社とWeChatでつながるところから始めるべきだ。そしてT/Tを使わず先方へ急ぎの送金ができる手段(例:PayPal)を用意する。

でだ。そのうえで、だ。
本書に書かれていない、いちばん大事なこと。それは「少額であれば気前よく、前金で、すぐに金をはらう」こと。日本人はとかく金を払うのが遅い。相手に検討させることはタダだと思っているし、ある程度までは金を払わなくてもちゃんと検討してくれると思っている。対日本人であればそれはそのとおりで、契約がほしいから先に少しだけサービスで手を動かすとか、普通にみんなやるだろう。でも、それに慣れすぎた日本人が対中国工場でやると、まーーーうまくいかない。もちろん1億円をぽんと払えとはいわないけれど、20万円で検討、検討、また検討とやっていたらまともに相手してくれるのは日本人ぐらいになっちゃう。

相手も超大手工場とかならいいんだけど、中堅以下の工場とやりあうときには、このポイントは超だいじ。海外にお金を払ったがさいご、持ち逃げされるんじゃないか、ろくでもないものを掴まされるんじゃないかと不必要なまでにビビる人が多すぎる。

Cerevoのオウンドメディアとしてカデーニャファクトリー(現:カデーニャカンパニー)を立ち上げた初期のストーリーにこれを象徴するような4コマ漫画があるので、これを貼っておわりにしたい。

第15話:ままならない【カデーニャファクトリー】
https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/kadenya/comic/1121373.html

このあと、工場のおにーちゃんは(当たり前だけど)ちゃんと型番の正しいものを、彼らの負担で送ってきてくれるのだ。そして、送り直す時間もふくめて、漫画内に描かれている中国企業B社のほうが早い、そして安い・・・・事が多い。ちなみにこの漫画、たった4コマだが裏には深い背景がある。この日本企業A社と取引開始がなかなか進まないなぁと思っていたら、帝国データバンクなり東京商工から電話がかかってきてブチ切れる、というやつだ。お前そんなことのために私たちの貴重な時間を適当な理由をつけて削ってたんかい、と。漫画中ではすぱっと中国側に切り替えているが、この日本企業のスタートアップいじめというかスタートアップ時間奪い?につきあわされている会社のボヤキを今年だけでも数社聞いた。そのたびにこのカデーニャカンパニー第15話を送るのだった。

たき先生※1、カデーニャカンパニーのネタとして、金はらわない日本人ネタと、あと日本語通訳使うより英語でやったほうが仲良くなれるしうまくいくよネタをやりましょうよ、来年どっかで!

※1 たき先生は、カデーニャカンパニーを書いてくださっている漫画家さん

と、最後はまーったくもって話が脱線したが、日本語通訳(あるいは現地法人の日本語話せる担当者)を使ったやりとりにならざるをえないメカ屋さんたちにとっては、とっても参考になるいい本だな、という感想でした。