『アーロンチェア』を勧める意見は鵜呑みにするな!からの…アクトチェアのレビュー

自室ではメインにアクトチェアを使い、サブ用途にレビーノチェアを置き、レカロのSR2をオフィスチェアに改造したキットに座りつつ、S2000の純正シートをレースシム用に部屋に置き、子供部屋にアクトチェアをもう1脚とセイルチェアを使ってます。オフィスでは現在リープチェアを使用中という椅子大好きっ子の和尚です。

コロナ禍で高級オフィスチェア(どこからが高級なんだというのはさておき。まぁ定価7万円以上ぐらいかな)がめちゃくちゃ流行っているらしい。私のところにも質問がよく来る。おすすめの椅子はなんですか? ってね。そりゃそうだ、高い買い物なのだから識者に聞こうではないかと。そして本当に椅子に詳しい人は『浅草橋にあるWORKAHOLICに行って座って、自分にあったものを選ぶといいですよ』という。椅子は身体にあわせて買うもので、人に聞いて買うものではないのだ。しかしながら、WORKAHOLICのWebページを見ると『コロナで予約制の営業になっているが、今予約しても1ヶ月以上は待ってもらう』旨の悲しいメッセージ。また、地方在住者は東京は浅草橋まで出てくるのは難しい。

そんなこんだでWebの意見だけで椅子を買おうって人が結構いるっぽく、今日もSNSやDiscordでは椅子のおすすめについての意見がやりとりされる。

そういったやりとりを見ていていつも、アーロンチェアを勧める意見は1/5ぐらいだけ聞け! と思うのだ。何もハーマンミラー社の椅子が悪いものだと言っているのではない。現に私だってセイルチェアを自宅に置いてその快適性を理解しているつもりだ。

じゃぁなんで? というと、アーロンチェアが古くから(26年前!)販売されているからだ。古くから売っているということは、長いスパンで見たときの累計販売台数がとっても大きいということ。そしてPCやスマホのように数年で古臭くなって買い換えるものではないこと。さらに輪をかけて正規販売のハーマンミラー社の椅子は12年保証(ガスシリンダーは2年だが)ということもあって、10年以上前のアーロンチェアをキレイな状態に保って愛用中というユーザも数多い。

これが何を引き起こすかというと、SNSやChatAppで『おすすめチェアは?』と聞くと、アーロンチェアがおすすめというユーザの数がどうしても多く見えてしまい、『沢山の人がおすすめしているのだからいい椅子なのだろう』と感じてしまうことだ。ここ数年で発売開始した良い椅子もたくさんあるのだが、当然そういったものは累計出荷台数…..厳密にはいま現役で使われている椅子たちの台数が多いものの意見が強くなる。アーロンチェアは残念ながらその台数が圧倒的に多いのだ。

市場現存台数が多いってことは、いい椅子ってことじゃん。とはならないのは、中古車を想像してもらうとわかりやすいはずだ。20年前に発売された車でみんなが乗っているもの、2年前に発売された最新鋭のまだあまり皆が乗っていない車、さてどっちがいいでしょうという話。当然だが椅子は新しければいいというものではないし、古いから駄目というものでもない。車ほど進化が早くないのだから古くてもいいものはいいんだ! という意見はもちろんわかる。ただ私が伝えたいのは、20年前に発売されて広く使われている『それなりに良い』ものは、そりゃたくさんの良い意見が出てくるよ、ってことなのだ。逆に、新しくてもたいして広く使われていないものはポジティブ意見の『数』が出てきにくい。

なので、新しく高級オフィスチェアを買おうという方は、ぜひとも古い製品についてのコメント数は割り引いて見てもらいたい。つまりアーロンチェアをおすすめする人が5人いて、アクトチェア……でも何でもいいんだが最近出た椅子をおすすめする人が1人いたら、まぁ同じぐらいの意見数なんだな、と見てほしいのである。

逆の視点でいえば、最近発売した椅子でおすすめする人が多い椅子は、お、これはひょっとするとすごいいい椅子なんじゃないか? と目を向けてみてもらえればと思う。

あと、あまりこういうことを書くとアーロンチェアを愛する人に怒られてしまうが、個人的にはちょっとアーロンチェアと数年前までのニコン一眼レフを勧める人に同じクラスター感を感じてしまっているというのもある。ある種の宗教的なというか、盲目的なクラスター感をちょっと感じてしまうところがあるのは否めない。それが悪いとは返す返すも思わないのだが、そういう側面が比較的強いブランドであり、ユーザー群だなと思うのである。

ワタシ的おすすめ椅子は?

で、何が言いたかったかというと、イトーキのアクトチェアは最高ですよ、ということ。2018年12月発表ということで実質まで1年半しか市場に出てから時間がたっていないこともあり、驚くほど情報が少ないチェア。結果アーロンチェアいいよ圧に負けがちなのだが、そりゃ仕方がないわなと。

背中に沿い、左右に動く背もたれが快適

アクトチェアのおすすめポイントは背もたれと肘掛け。背もたれがハンモックのような構造になっていて、身体のラインにあわせてフィットする。そのうえで、左右に身体をひねるとその動きに追従してハイバック上部がうにうにと左右に振れてくれる。これがスキ!という方とキライ!という方に大きく分かれるのだけど、3面モニタやウルトラワイド湾曲モニタなどを使って身体を若干左右に振りつつPC作業をする人にはめちゃ気持ちいいのだ。もちろん、オフィス用途ではちょっととなりの同僚に話しかける、斜め後ろを振り返るなんて時にも快適だ。それでいて、フラフラ感を感じるなんてことはまったくない。よほど体重が重いとか、大柄な方であれば感覚は異なるのかもしれないが、174cm 62kgの標準的?男性には大変快適な背もたれの捻り具合なのである。このあたり、肩をどかっと預けたときの快適感というのはイトーキに限らず国内メーカー品は本当に日本人というかアジア人の体型に合わせてきているなぁという印象。アクトチェアも、身長190cm体重85kgの欧米人にはちょっと合わないだろうなという感じが伝わってくるからだ。

肘掛け(4Dリンクアーム)

そしてアクトチェア第2のおすすめポイントは4Dリンクアームと称される可動肘掛け。ぶっちゃけ可動肘なきアクトチェアはアクトチェアにあらず、というほどに重要なオプションになっている。で、この4Dリンクアーム何がいいのかというと、アーロンチェアとかと違って手元(肘掛け前方下)スイッチを押しながらアームをさっと動かせるうえ、アーム可動域がびっくりするぐらいに広い。どれぐらい広いかというと、成人男性が背もたれに身を預け、腕をめいっぱい前に突き出してキーボードにぎりぎり手が届く….という着座位置を取ったときでも、肘掛けに肘がちゃんと当たるのだ(繰り返すが、腕は伸び切っている)。

手をピンと伸ばしてキーボードにちょうど届く位置。肘掛けのポジションを見てほしい
前画像の状態では 肘の位置がわかりにくいと思ったので、少し肘を曲げてみる。
机下面までの高さが70cmなので、肘掛けの高さがよくわかる

座面高を最低位置にして、肘掛けの上面は最高位で80cm程度と70cmテーブルよりはるかに高い位置まで上がる。キーボード&マウス操作において肘掛けはパームレストよりも数百倍大切な存在だ。適切な位置に適切な角度で肘置きを持ってくることができれば、そもそもパームレストなんて要らない、というケースがほとんどだ。4Dリンクアームにしてからというもの、キーボードまわりで手首がちょっとつらい、なんてことは全くなくなった。

また、肘掛けが不要な時(レーシングシミュレーターを楽しむ時とか!)は相当外側まで移動し、高さも大きく下げられるので全く邪魔にならない。背もたれ中央に背中を押し付けた状態で肘を前後左右に頑張って振ってみた動画を貼っておく。

この位置(最も下げ、最も外側に振った状態)では肘を当てようと頑張っても、背中を浮かして身体を左に倒しでもしない限りは肘が当たらない。これは本当に素晴らしい設計だ。

またアーロンなど一部チェアには備わっていない、肘掛け面(肘と接触する面)が前後にスライドする機構を備えている。この前後移動、いちど味わってしまうと無い椅子に戻るのはびっくりするぐらい不快だ。もちろんリープチェアなども前後スライドを備えているが、リープ使ったことある人ならわかると思うのだがスライドさせた状態で体重をかけるとびっくりするぐらい撓む、あの剛性感の無さはアクトチェアの4Dリンクアームには微塵もない。最前部までスライドさせた、一番剛性的にきつい状態であっても、そこにぐっと体重をかけて立ち上がっても不安を感じないほどの出来(あんまりオススメはできない使い方だけど)。

4Dリンクアームについては『驚くほど広く、片手でさっと操作できる可動肘にも関わらず、びっくりするぐらいシッカリ感がある』とまとめたいと思う。あ、そうそう、最後にもう1点4Dリンクアームのすばらしいところを。それは、表面素材だ。スチールケース含めて高温多湿な日本に欧米系の椅子で採用されている可動肘の表面素材はどーも肌触りが悪い。実際リープチェアやエルゴヒューマンの肘掛け表面素材は吸湿のせいか数年でボロボロになる。アクトチェアの肘掛け表面素材はリープやエルゴヒューマンに使われているような素材とは感触からして根本的に異なるものに見える。より硬い、みっちりとした特殊樹脂で、加水分解しにくさを狙ったのだろうなというのが見て取れるが、驚くほど硬さを感じない。むしろこの肘掛け表面素材に慣れてしまうと、リープチェアのぺっとりとした感触が嫌になるぐらいなのだ。冬場に冷たさを感じることもない絶妙なシボ具合で、とにかくこの肘掛けは最高にイイ。この肘掛けに惹かれて買った要素が4割ぐらいあるかなというぐらいだ。

包み込まれる感じの座面がイイ

背もたれと肘掛けの素晴らしさと比べると小さなことだが、座面クッションが側方から中央にむかって(他のチェアたちと比べると)落ち込んでいて、おケツが包み込まれる感じも好みだ。車でいうバケットシートのような感じとでも言おうか。もちろん車のバケットシートほどすっぽり感は無いのだが(あったら動きづらいとか暑いとかで困る)、ケツはちょっと包み込み気味、肩まわりは開放気味(動くので)という感じがなんともいえない快適感につながっている。まぁこればっかりは座ってみてもらわないと言葉や写真・動画では絶対に伝わらないのでぜひどこかで触れて見てもらえればなと思う。

※残念ながらイトーキの椅子は何とWORKAHOLICでの取り扱いは無い……と思ったら、オンラインストアにないだけで展示はやってるぽい。情報感謝です!